2018年度山岳遭難発生状況

Pocket

6月13日付で警察庁から昨年(2018年)の山岳遭難統計が発表されました。

(1)全体数

図1 過去10年間の山岳遭難発生状況

遭難件数………………2661件(+78) 3.0%増
遭難者数………………3129人(+18) 0.6%減
死者・行方不明者数… 342人(-12) 3.4%減
死者・不明者の割合…10.9%
遭難件数・遭難者数は統計開始(1961年)以来で最も多くなりました。2015年以降、2500件超、3000人クラスの多発状況がずっと続いていましたが、2018年はさらに増加傾向が出てきています。遭難件数で3%増は、高い率だと思います。
一方、死亡者数(行方不明者を含む)の遭難者総数に占める割合は10.9%で、2016年に並んで史上最低となり、山岳遭難救助における救命率が高いことを示しています。しかし、救命率が約11%ということは、遭難してしまったら10人に1人以上の高い率で助からないことを意味します。登山をはじめ、山岳レジャーとは大変危険なものであるといえます。

(2)年齢層別状況

図2:年齢層別遭難者数(2015年・2018年)

10歳ごとに区切って遭難者数の分布を見ると、最多は70代、2番目に60代が多いですが、ほとんど同レベルで並びます。次いで50代、40代、30代の順になっています。
警察庁統計では、次の点が指摘されています。
・遭難者のうち、40歳以上が2457人、全体の78.5%を占める。
・遭難者のうち、60歳以上が1581人、全体の50.5%を占める。
・死者+不明者のうち、40歳以上が325人、全体の95.0%を占める。
・死者+不明者のうち、60歳以上が246人、全体の71.9%を占める。
しかし、遭難者数の大小は、登山人口の大小に対応していると考えられます。
遭難者数が多いからといって、その年齢層が「遭難しやすい年齢層」だとすることはできません。上記のデータを根拠に「高齢者が遭難を起こしやすい」と断定するのは、正確ではない考え方だと思います。
図2のグラフは、参考として3年前のデータを並べてあります。2015年(赤)と2018年(緑)とを比較すると、増加幅の大きいのが50代と70代、減少しているのが60代となっています。

図3 年齢層別遭難者数と比率の推移

(3)年齢層別状況の変化

もっと長期間にわたって年齢層別の変化を見たのが図3です。比率の推移(下のグラフ)を見ると、60代は大きく比率を下げ、50代も比率を下げています。逆にアップしているのが70代と40代です。
厳密に分けられるものではないですが、70代は国内で人口が最も多い年齢層(いわゆる団塊世代)に近く、40代はその子供の世代に近いと推測できます。
2018年は60代と70代の遭難者数がほぼ同数、同比率になりました。山岳遭難を抑止するには、この年齢層への遭難防止対策が重要になると思います。

(4)態様(原因)別状況

図4 態様(原因)別遭難者数(2018年)

「態様」とは警察庁統計にある用語で、遭難の形態をさしています。遭難原因と意味が重なる場合もあります。
図4のように、いろいろな遭難態様(原因)がありますが、内容の近い「転落」と「滑落」、「疲労」と「病気」を合わせて、次のようにまとめられます。カッコ内は前年度と比較した増減数です。
①転・滑落…… 644人(+ 20) 20.6%
②転倒………… 468人(- 1) 15.0%
③道迷い………1187人(- 65) 37.9%
④疲労・病気… 513人(+106) 16.4%
以上4種類の合計で、全体の約90%となります。
遭難原因で一番多いのは「道迷い」です。しかも、他の要因「滑落」「転倒」「疲労」「病気」も道迷い状況から引き起こされるケースがあり、それらは統計上「道迷い」ではなく、帰結となった態様のほうに分類されることが多いです。現代の山岳遭難において、「道迷い」は大きな引き金になっている、注意すべき遭難リスクといえます。
しかし、その「道迷い」にも、減少傾向が見られるようになってきました。地図を使える迷わない人、迷っても遭難以前でくい止められる人が増えているのではないでしょうか。

図5 態様(原因)別遭難者数と比率の推移

(5)態様(原因)別状況の変化

図5は13年間にわたる態様(原因)別遭難者数の推移です。遭難者全体が増加する中で、特に「道迷い」が大きく増加してきました。増加率はそれよりも鈍りますが、「転・滑落」「転倒」「病気」「疲労」も増えてきました。それに対して、その他の態様(落石、悪天候<落雷、鉄砲水を含む>、野生動物襲撃、雪崩)は増えていません。
何年も増加を続けてきた山岳遭難は、落石、悪天候、雪崩のような古典的遭難ではなく、上記①~④(なかでも「道迷い」)が増えてきたのでした。
図5下のグラフを見ると、2015年ごろから「道迷い」の比率が変動し、小幅ですが下降傾向が表れてきました。逆に「疲労」「病気」はわずかながら上昇傾向、「転・滑落」「転倒」はほとんど一定率を維持しています。
「道迷い」対策は、一種の流行現象とも見られるほど、登山教室や講習などが活発に行われてきました。今後は、「転倒」「転・滑落」「病気」「疲労」への対策も充実させてゆくことが重要ではないでしょうか。