雪山ガイド講習―12月11~13日 谷川岳周辺

Pocket

12月11日から3日間、かながわ山岳ガイド協会の雪山ガイド講習を受講しました。講師は武川俊二ガイド。10月のガイド講習(無雪期)でもお世話になっていて、だいぶお人柄ものみ込めたところです。
ガイド講習というのは、ガイド資格認定を兼ねた講習のことです。受講生がガイドとして必要な技術を身に付けているか確認して、足りない部分は講習してもらえます。それも、できるまでくり返し教えてくれるので、最終的には高い確率で合格できるしくみになっています。実技試験をダイレクトに受けるより、受講料がかかるけれどもお得です。

1日目。1人がガイド役、3人がお客さん役になって、本番のガイド登山をシミュレーションしながら歩きます。コースは、宿泊地の土合山の家から旧道をマチガ沢出合、一ノ倉沢出合までです。私のよく知っている道でもあり、へたですが比較的楽にできました。
この旧道沿いはブナのきれいな森で、温帯広葉樹の原生林に近い植生と思われます。東北地方の白神山地のような有名どころにも負けないほど美しいところです。大量の積雪が作った地形や植生が見られるので、そのことをお話しすればいい感じです。あまり詳しすぎるのも飽きられるので、ほどほど、短めの解説がコツです。

P01: マチガ沢

マチガ沢に着くと、谷川岳東面の異様な岩壁群の風景になります。今は特別なスキーヤーでなくても、この谷をスキーで滑り降りています(もちろん上級者です)。左に見えるスカイラインは谷川岳を代表する西黒尾根ルートです。登山を続けられるなら、ぜひ1度は登ってほしいルートです(できれば積雪期に)。というように、話題はいろいろあります。

P02: 一ノ倉沢

一ノ倉沢はさらに異様な景観が展開します。どんな場所がルートとして登られているか、ルートを少し解説してみるのもいいかもしれません。クライマーとはすごい所を登れるものだと感嘆するでしょう。しかし、旧道に沿った岩壁には、犠牲者を慰霊する多数のプレートが埋め込まれていて、この場所の重い歴史を語りかけています。
一ノ倉沢旧道出合から湯檜曽川近くに下りて、新道を歩いて戻ってきました。この日はガイディング実技だけで終わり、夜にはショートロープのセット方法を教わりました。

2日目。ロープウェイで天神平に上がり、スノーシューで稜線まで登ります。けっこう斜度のある斜面を登るように指示され、そのときに雪崩を避けるラインを考えているかテストされました。問題があると止められて、何が悪かったのか講習されます。「自分が登れるかどうか」ではなく、お客さんを「安全に登らせられるかどうか」が視点になります。でも、講習生は息を切らせ、自分が登るのでせいいっぱい……みたいな様子でした。
稜線に出て、熊穴沢方面に少し進み、下りになったところで固定ロープのセットを指示されました。固定ロープは無雪期の講習でもやっているので、説明なしで講習生が各自セットします。ちなみに、ただ固定ロープをセットすればよいのではなく、ガイディングしている状態から、あらかじめザック上部に入れて用意してあったロープを末端から引き出して、支点の木にロープ末端を結び、次の支点のカラビナにロープ中間を固定、第3の支点のカラビナにロープ中間を固定、最後の支点にロープ(中間または末端)を固定、これぐらいでセット完了になります。
しかし、全員が雪を考慮していないと指摘されました。支点が細めの木の場合、雪の上に出た部分にセットするのは危険です。雪を掘り下げて、しっかりと効いた部分を出して、そこにセットするのが正解です。

P03: オートブロックのセット、スリング右の結び目は長さ調節のためのもの

さらに先へ進み、天神平からのトラバース道が合流する地点から、右折して天神平へ戻ります。その途中で、ロープによる1/3引き上げをやりました。これは滑落などで歩けなくなった人を、安全地帯まで引き上げるシンプルな方法で、ロープ、スリング、カラビナだけを使って引き上げます。手順の都合上、ムンターヒッチでの引き下ろし技術と、次のように組み合わせて行います。
(1)アンカーを作り、セルフビレイをセット
(2)ロープ末端をお客さんに結び、アンカーにムンターヒッチをセット
(3)お客さんを下ろす。一定距離を下ろしたら安全な場所で停止し、ミュールノットで仮固定、オーバーハンドノットで本固定する。お客さんへ待機するよう指示を送る
(4)1/3引き上げシステムをセットする(下部クレムハイスト、上部オートブロック)
(5)ムンターヒッチの固定を解除し、お客さんを最初の地点まで引き上げる
この一連の実技は、登山ガイドの検定試験の中では、最も複雑な項目のひとつといえます(ショートロープは試験科目に入っていません)。ここではピッケルアンカーを作ったうえで、1/3引き上げの実技をできるまでやりました。しかし、できない人も残ったので、あとでまた講習してもらえることになりました。

スキー場に戻り、かつて雪崩事故があったという斜面を靴だけ(アイゼンなし)で登りました。悪場の歩行かキックステップ(またはカッティング)が試されていたと思います。講師は指摘しませんでしたが、ガイドとしては、お客さんが安全かつ楽に登れるように、キックステップやカッティングで安定した足場を作りながら登るべきだったと思われます。講習生のかたは自分が登るだけでせいいっぱいのように見えました。
途中で、左側の灌木帯の木を使って、ツエルトを張るように指示されました。ここはかなり条件が悪かったです。ガイド講習でのツエルトの張り方は決まっています。
(1)ロープを2つの支点(ここでは木)間に張り渡す
(2)ロープの2点にスリングをフリクションノット(クレムハイスト)で結ぶ
(3)そのスリングに、カラビナでツエルトの頂点を連結する。スリングを動かしてツエルトを張る
(4)中の空間を広げ、底のシートを整地してできるだけ平らにする
フリクションノットはクレムハイスト以外の方法でも可と思います。また(4)の居住性は、実技試験でどの程度問われるか不明ですが、底から枝が突き出てないか、大きな石がないかなど調べられるようです。これを一定時間(15分程度と思われます)で完了することが要求されます。ツエルトはすぐ張れるように常時準備しておくこと、張るときに強風で飛ばされない工夫(カラビナで身体にツエルトの一端をかけておくなど)が必要です。
この日も夜に1時間ほど、ショートロープと1/3引き上げをやりました。

3日目、またマチガ沢出合へ行きました。途中まではガイディングの実技です。前夜はけっこうな量の雪が降ったので、山は美しい雪景色が見られました。
マチガ沢で3つのことをやりました。厳剛新道を少し入ったところで、ビバーク用ツエルトのセットです。昨日よりも条件のよい場所で張りやすかったです。講習生の1~2人用ツエルトはコンパクトで小さく、お客さんが3人入ることができないか、ガイドが入ることができない、と指摘されました。私の1~2人用ツェルトは旧タイプで、4人が窮屈でなく腰を下ろすことができます。ただし、軽量化された現代のツエルトの2倍以上の重量があります。ともあれ、1~2人しか入れないツエルトはガイド用には使えません(しかし、そのことは実技試験で要求されず、結び方が正しければ試験は通るらしいです)。

P04: ザック搬送のためのセット

ザックでの背負い搬送をやりました。要救助者はハーネスをつけている前提です。
(1)空にしたザックのショルダーベルトにスリング+カラビナをセット
(2)そのスリングをクロスさせたうえで、要救助者のハーネスのウエスト~レッグベルト連結部にカラビナをかける
(3)ショルダーベルトを一度緩めて、救助者が肩を入れ、背負う態勢になってからショルダーベルトを締め直す
(4)立ち上がる際に、お客さん1~2人に補助してもらう。補助をお願いする際には、わかりやすく明確に指示をする必要がある
以下は講習されたものではなく、私自身の考えた方法のメモです。
 ・1人は背側に回り、要救助者のヒップベルトに手をかけて持ち上げる
 ・1人は救助者の前で、ショルダーベルトに手をかけて持ち上げる
次に、アイゼンを装着し、岩場の通過のシミュレーションをしました。短い岩場の通過で、お客さんをどうガイドするかという問題です。しかし、雪が少なすぎるため、アイゼンで通過するのが難しすぎて、うまく実技できなかったと思います。予定していた支点がなくなっていて、固定ロープも張れませんでした。以下は講習されたものではなく、このテーマについての私個人の整理です。
(1)固定ロープをセットする
(2)あらかじめ足場、手がかりの位置を示し、通過のしかたと注意点を説明する
(3)1人ずつ、通過する際の動作をアドバイスしながら、通過してもらう
(4)通過し終えた人に待機場所を指示する
※全員分のハーネスはないので、待機してもらう場所は、セルフビレイがなくても安全である必要があります。

P07: 旧道を歩く

帰りの途中で、もう1度、1/3引き上げをやりました。このときが一番本格的な設定で、10mほどの長い引き上げはきつかったです。これまでの反復練習のおかげで、講習生全員がだいたいできるようになりました。
しかし、積雪期安全管理技術の実技試験を受験しなければ、1/3引き上げの試験はありません。私はまだ予定を決めていませんが、ほかの3人は日本雪崩ネットワークの認定講習を受けるので、そうすると上記試験は免除されることになっています。
雪崩講習を受ければ、雪崩関係だけでなく、ロープワークその他の安全管理技術の試験まで免除されるとは、何か変だなあ?と疑問を感じます。これでは、ロープワークや雪上ビバークのできない、または苦手な登山ガイドが送り出されてしまうのではないでしょうか?(とはいえ、受講生の身分でよけいなことは言わないほうがいいでしょう)

P05: ツエルト担架のセット1。とても簡単にできる
P06: ツエルト担架のセット2

講習の全日程が終わり、武川ガイドは最後に次のようにアドバイスしてくれました。
「皆さんはステージ2の資格を取れたら、ガイドの仕事を具体的に始めてがんばられるとよいと思います。ステージを上げる方法もありますが、これ以上のステージは相当厳しいので、甘くは考えないほうがいいです。ステージ2は、十分にガイド業を展開できる資格ですので、まずはガイドとしてよい仕事を目指してください。上級を目指すよりも、そちらに労力を注がれるほうがお勧めできます」
自分に言われているような気がしました。
何のためのガイドかといえば、山が好きだがうまく山へ行けないでいる人がいて、その人の手助けをしながらいっしょに登り、気持ちよく山の時間を過ごすのが目的です。よいガイドの仕事をするのが目的で、上級の資格に挑戦して突破することが目的なのではありません。
講習内容の多くの部分は、以前からやっていたことと同質のもので、少し安心しました。ひさびさに登山技術を使い、考え、チェックするような作業を楽しんでいました。具体的な目標をもって山とかかわろうとしている3人(男性2人、女性1人)は前向きですがすがしく、彼らと3日間、とても気持ちのよい時間を過ごすことができました。