[7月1~31日の遭難関係ニュースから]
7月の山岳遭難まとめと、関連ニュースです。
7月中にマスコミ報道などで把握した山岳遭難発生は29件(遭難者数37人)でした。
通常、7月下旬からは夏山登山が活発化します。昨年7月は99件の遭難事例がリストアップされていました。今年の発生件数は3分の1以下となっています。富士山への登山は全面的に禁止され、本格的な夏山登山の対象である北・中央・南アルプスと八ヶ岳では、登山への制限や自粛ムードがまだ色濃く残っています。本来の夏山中心地へ向かえないことから、居住地に近い日帰り圏内の低山を地道に登っている人が多いと思われます。
29件の遭難の発生エリアは、北海道・東北6件、関東6件、日本アルプス・八ヶ岳11件、近畿以西6件と、見事に分散傾向を示しています。例年のような、北・南アルプスでの集中的多発が全く見られない一方、各地の低山で、病死遭難事例や滑落死亡事故が頻発しています。
7/4(土)安蘇・両崖山(栃木県足利市)で男性(46)が足を滑らせ3m滑落、腰や左足を骨折。発見者が搬送し通報
7/5(日)八剣山(札幌市南区)山頂近くの岩場を下山中の女性(79)が30m下の斜面に滑落。消防ヘリで救助後死亡
7/7(火)北アルプス立山室堂で7/6午後男性(40代)が発病、7/7早朝救助要請するが、下山中に意識不明となり死亡
7/8(水)四万川(群馬県中之条町)本流で沢登りの女性(21)が徒渉中に流され行方不明。7/10下流800mで遺体発見
7/18(土)奥秩父・笠取山登山道で女性(60)が沢に架かる丸太橋で足を滑らせ2m転落負傷。日下部署・消防が救助
7/18(土)中央アルプス熊沢岳に日帰り予定で入山した男性(57)が帰宅せず連絡不通。7/19自力下山し無事確認
7/18(土)北アルプス剱岳前剱付近で男性(31)が足を滑らせ転倒して右肩打撲。劒沢へ下山後、7/19県警ヘリが救助
7/19(日)月山賽ノ河原付近でトレイルランニングの男性(42)が10m滑落して行動不能。7/20防災ヘリが救助
7/21(火)夏油温泉北側の山中で女性(55・35)が道に迷い18:30通報、20:00以降連絡不通。7/22朝、発見救助
7/20(月)谷川岳天神尾根を登山中の女性(76)がバランスを崩して転倒、右腕を骨折。沼田署が救助搬送
7/21(火)北アルプス烏帽子岳ブナ立尾根で男性(42)が30㎏の重荷、睡眠不足、疲労により行動不能。大町署が救助
7/22(水)奥秩父・金峰山で男性(50)が道に迷い行動不能。7/23遭対協救助隊が救助
7/22(水)北アルプス白馬大雪渓で女性(48)が落石を受けて負傷。大町署などが救助
7/22(水)北アルプス白馬大雪渓で女性(50)が疲労により行動不能。大町署などが救助
7/22(水)=救助日/北アルプス鹿島槍ヶ岳へ7/19に入山した女性(72)が転倒して歩行困難。7/22県警ヘリが救助
7/22(水)鈴鹿・武平峠から御在所岳へ向かった女性(70)がコクイ谷分岐付近で5m滑落、くも膜下出血により死亡
7/23(祝)飯豊・大日杉小屋の西1.5kmで女性(69)がぬかるんだ道で転倒、左脚骨折の疑い。7/24防災ヘリが救助
7/23(祝)南アルプス地蔵ヶ岳で、女性(54)が鳳凰小屋に宿泊後、下山途中に石につまずき転倒負傷。夫が通報
7/24(祝)空沼岳(札幌市南区)で高校生・教員計8人が予定日に下山できないと救助要請。消防・道警ヘリが救助
7/24(祝)大峰・行者還岳~七曜岳で男性(62)が「道に迷った」と長女に連絡後行方不明。7/25警察に届出、未発見
7/24(祝)朝日・西朝日岳の東400m付近で、男性(25)が足を滑らせ左足首をくじいて骨折。防災ヘリが救助搬送
7/24(祝)那須・赤面山で女性(54)が天候悪化のため引き返す際に右足を滑らせ負傷。白河署・消防が救助
7/24(祝)八ヶ岳山麓の天女山でツアー登山中の男性(70)が体調不良を訴え、意識を失い倒れる。病院で死亡確認
7/26(日)北アルプス薬師沢2060m付近で男性(56)が濡れた木道で足を滑らせ転倒、左足首骨折。県警ヘリが救助
7/26(日)比婆山(広島県庄原市)で登山行事参加の男性(70代)が、先に1人で登り始めて道に迷う。7/28未発見
7/29(水)八面山(大分県中津市)へ登った男性(75)が道に迷ったと、妻が110番通報(19:45)。詳細不明
7/30(木)北アルプス白岳2400m付近で意識なく倒れている男性(66)を登山者が発見。8/2大町署が救助、死亡確認
7/31(金)皿ヶ嶺山脈石墨山を下山中の男女が道に迷い、8/1から別行動。8/4白猪ノ滝付近で女性(77)の遺体発見
7/31(金)屋久島・高盤岳へ向かった女性(69)が戻らず行方不明。8/5登山道から500m離れた国有林内で遺体発見
[その他のニュース]
●富士山登山道閉鎖
富士山は山梨県側の五合目から上の登山道を閉鎖(五合目までは入山可能)、静岡県側は富士宮・御殿場・須走の登山ルート閉鎖とともに、各五合目へ通ずる車道も閉鎖されます。全山小屋が休業し、静岡県警は常駐警備を行わないことに決定しました。山梨県側五合目は車の入場台数と駐車時間を制限します。登山禁止期間中に富士山に登ると、道路法違反で処罰されます(6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金)。
●南アルプスは大半の山小屋休業
静岡県側の南アルプスでは、今夏は16ある全山小屋を閉鎖して営業しないことを決めました(5月15日)。一部山小屋は、避難小屋としての利用はできます。長野県側でも、仙丈小屋、こもれび山荘、塩見小屋、中央アルプス西駒山荘の休業決定(5月22日)、山梨県側でも市営山小屋である北岳山荘、白根御池小屋、広河原山荘、両俣小屋、長衛小屋の休業を決めました(5月27日)。さらに、県道・県営林道である夜叉神~広河原~奈良田線、広河原~北沢峠線と、北岳の白鳳峠歩道、広河原~中白根歩道、両俣歩道も利用禁止が決まりました(7月3日)。日本第2位の高峰である北岳は限りなく登山禁止に近いです。それ以外の南アルプス主稜線は、今年の夏山はテントと無人小屋泊のみとなります。
気にかかった遭難事例
●道迷い後に行方不明、滑落死亡で発見
7月31日、石鎚山系の西にある皿ヶ嶺山脈石墨山に登った男女(76・77)が道に迷い遭難し、昼ごろ男性の家族(娘)に女性から「遭難した」と連絡がありました。8月1日15時すぎ、女性の知人から、「2人がまだ帰っていない」と110番通報があり(なぜ通報が1日遅れたかは不明)、警察・消防が捜索したところ、約30分後に白猪ノ滝付近を1人で下山している男性を発見しました。
男性によると、1日昼ごろまで女性といっしょに沢を下っていたが、女性は「滑落が怖いので別のルートを行く」と言い、尾根に向かって登って行ったそうです。のべ約150人での捜索が行われ、8月4日昼前、白猪ノ滝の滝つぼに近い斜面に女性が倒れているのが見つかり、その場で死亡が確認されました。
(考察)
東温市側から石墨山へよく登られているのは、唐岬(からかい)ノ滝、または黒森峠からのルートです。白猪ノ滝からのルートは標高差が大きく健脚向きとなるため、登る人は少ないようです。そのためか、登山口から白猪谷分岐まではルートがわかりにくい、ヤブが多い、または沢が交差するなど、道迷いの危険要素があることが、SNSの記録などでわかります。
以下はすべて推定です。遭難者が歩こうとしたのは、唐岬ノ滝から石墨山に登り、白猪峠に下って、白猪谷分岐から唐岬ノ滝へ周回するルートだと推測されます。どのように迷ったかは報道からはわかりませんが、下山時に白猪谷分岐を見すごして直進してしまい、さらに薄くなった踏み跡も見失って沢通しに下ってしまった可能性があります(たとえばA地点)。そのように進んだとすると、最終的に白猪ノ滝の上に出ます。白猪ノ滝は安全に下れる方法があるのかどうか、現地を見ないと何とも言えません。男性は無事に下ることに成功したようですが。
沢を下った男性が助かって、尾根へ登り返そうとした女性が助からなかった、道迷いの基本原則とは逆だと話題になっているようです。しかし、この事例の一番の問題点は、分かれて行動してしまったことだと思います。
道迷いは、欧米ではインシデント(事故寸前)に分類されています。滑落と低体温症さえ防ぐことができれば、かならず助かる遭難形態なのです。