[2月の遭難関係ニュースから]
2月の山岳遭難まとめと、関連ニュースです。
1月末ごろから始まっていましたが、2月以降はバックカントリー?の遭難が多発しました。
「バックカントリー」は説明が必要でしょう。山岳地をおもにスキー、スノーボードなどで歩き、登り、滑走するのがバックカントリーです。スノーシューで歩くのもバックカントリーですが、登山靴になると、なぜか「雪山登山」になってしまいます。昔なら「山スキー」「山岳スキー」と呼んでいました。
上記のように「?」を付けているのは、同じような形の遭難事例の中に、スキー場の管理コース以外の場所を滑走する「コース外滑走」「管理区域外滑走」でのものが大変多いからです。これらは厳密にいって、バックカントリーのジャンルには含まれません。
2月中に当方がリストアップした遭難事例は49件でした。バックカントリー?での遭難は21件、その中で「コース外滑走」と思われるものは9件です。それらは、説明文の中になるべく「コース外滑走」という言葉を入れるようにしています。しかし、遭難の起こり方を詳しく調べないと、バックカントリーか「コース外滑走」かを、きちんと確定できない場合もあります。
2/1B(土)北海道ピンネシリ岳南斜面でイギリス人男性(34)が滑走中雪崩に巻き込まれる。病院で死亡
2/1B(土)乗鞍岳北東斜面で男性(47)がハイクアップ中に滑落し雪崩に巻き込まれる。ヘリ搬送後、病院で死亡
2/2(日)蔵王・熊野岳方面で中国籍男性(36)が「御釜を見に行く」と山頂駅を出発し戻らず。2/16未発見
2/2B(日)志賀・焼額山スキー場で男性(59)が仲間とコース外を滑走中、疲労のため戻れなくなる。中野署員が救助
2/2(日)八ヶ岳権現岳山頂付近で男性(45)がクライミング中に25m滑落し首を脱臼骨折。1.5H後防災ヘリが救助搬送
2/2B(日)北アルプス八方尾根で女性(62)がガイドらとスキー滑走中に転倒負傷。県警ヘリが救助
2/3(月)蔵王・熊野岳で台湾籍女性(34)が「山小屋に避難している」とSNSに送信して下山せず。2/4発見救助
2/4B(火)北アルプス乗鞍天狗原で男性(35)がガイド同行でスキー滑走中、雪崩に巻き込まれ負傷。県警ヘリが救助
2/5(水)延岡市北浦町の山林で男性(87)が山へ木を伐りに出かけて戻らず。道路脇の崖下に転落した遺体発見
2/7B(金)北アルプス栂池高原スキー場で男性(22・20)がコース外滑走中、道に迷い行動不能。大町署などが救助
2/8B(土)志賀高原寺子屋スキー場で男性(55)がコース外滑走中、道に迷い戻れなくなる。中野署・遭対協が救助
2/9(日)古賀志山(宇都宮市)の岩場を家族5人で下山中に、子供が怖がって動けなくなる。警察・消防が付添い下山
2/9(日)原不動滝(兵庫県宍粟市)で男性(34)が「滑落して木に引っかかっている」と通報。2/10滝壺で遺体発見
2/10B(月)羊蹄山へ単独で入山した男性(34)が戻らず、翌日1150m地点に埋まった遺体発見。雪崩に埋没した模様
2/10(月)吾妻連峰で男女3人(男59・47、女55)が風雪のため西吾妻小屋に避難して救助要請。2/12無事救出
2/10(月)八ヶ岳赤岳山頂付近で男性(53)が疲労および体調不良により行動不能。山小屋従業員が救助
2/10(月)八ヶ岳赤岳南東2800m付近で男性(61)が山梨側へ滑落して救助要請。2/12山梨県警ヘリが救助、死亡確認
2/10(月)御嶽山山頂付近で男女2人(66・47)が「吹雪のためビバークする」と連絡し不明。2/11通報後、発見救助
2/11B(祝/火)谷川・天神平スキー場で男性(15)が誤った方向へ滑走して戻れず、雪洞でビバーク。2/12発見救助
2/11(祝/火)浅間連峰黒斑山で男性(61)が下山中道に迷い行動不能。小諸署・遭対協が救助
2/14(金)八ヶ岳摩利支天大滝で男性(51)がアイスクライミング中に滑落し左足首骨折の模様。静岡県警ヘリが救助
2/15B(土)信越・鍋倉山で男性(78)が家族・友人とバックカントリー滑走中に転倒負傷。県警ヘリが救助
2/15B(土)北アルプス八方尾根南側斜面でツアー参加の男性(43)が滑走中に転倒し左膝骨折など。県警ヘリが救助
2/15(土)北陸・鞍掛山(石川県小松市)で男性(40代)が下山中に足を踏み外し左足首骨折の疑い。防災ヘリが救助
2/16(日)八ヶ岳赤岳地蔵尾根2600m付近で男性(60)が下山中に転倒し左足首骨折など。茅野署・遭対協が救助
2/17(月)八ヶ岳柳川北沢堰堤1950m付近で女性(47)が滑落して背中などを打ち骨盤骨折など。茅野署などが救助
2/18B(火)大雪・旭岳で男性(30)がコース外など滑走後、宿泊のホテルに戻らず行方不明。2/21地上捜索打ち切り
2/18(火)大菩薩・滝子山で男性(45)が下山中に道に迷い15:10ごろ通報。1.5H後防災ヘリが発見救助
2/19(水)寺山(兵庫県三田市)で男性(54)が山頂付近から「道に迷った」と通報。1.5H後防災ヘリが救助
2/19B(水)信越・野沢スキー場毛無山で女性(35・34)がコース外滑走中、道に迷い行動不能
2/20B(木)北海道サホロスキー場で男性(39・25)がコース外滑走中、道に迷い遭難。2/21朝に発見保護
2/20B(木)北アルプス八方尾根で男性(29)がコース外をスキー滑走中に転倒負傷。大町署が救助
2/22B(土)大雪・旭岳七合目付近で男性(42)が下山途中に吹雪で位置がわからなくなる。23:00ごろ発見救助
2/22B(土)トマムスキー場で男性(43)が滑走からホテルに戻らず行方不明、家族が通報。2/23朝コース外で救助
2/22(土)八ヶ岳広河原沢左俣で男性(59)がアイスクライミング中に3m滑落し左脚骨折の模様。茅野署などが救助
2/22B(土)北アルプス栂池高原で男女(46・36)がバックカントリー滑走中沢へ転落し行動不能。2/23県警などが救助
2/22(土)対馬・金田城跡で男性(68)が登山道脇に倒れているのを発見、病院で死亡確認。男性は2/21に入島
2/23(祝/日)大菩薩・滝子山で女性(60代)が下山途中に登山道から10m滑落し右腕を負傷。大月署などが救助
2/23(祝/日)道志・高川山で女性(65)が登頂後に体調不良(過呼吸)となり行動不能。防災ヘリが救助搬送
2/24(休/月)古賀志山(宇都宮市)で女性(74)が登山道の橋から足を踏み外して転落、頭を負傷。防災ヘリが救助
2/24(休/月)八ヶ岳唐沢鉱泉から天狗岳へ入山した女性(53)が行方不明。2/25白砂新道南方で遺体発見、外傷なし
2/24(休/月)八ヶ岳赤岳鉱泉で宿泊中の女性(28)が体調不良となり行動不能。県警ヘリが救助
2/24(休/月)乗鞍・野麦峠スキー場で男性(49)の遺体発見。詳細不明
2/25B(火)利尻山で男性ガイド(45)がスキー滑走中に滑落し左アキレス腱断裂。防災ヘリが救助
2/26(水)中央アルプス空木岳で男性(32)が「下山する」と連絡後不明。2/27県警ヘリが池山尾根1400mで遺体発見
2/26(水)北アルプス霞沢岳で女性(39)が滑落し行動不能。県警救助隊が救助
2/26(水)三倉岳(広島県大竹市)で男性(60代)がクライミング中に20m滑落し心肺停止状態。病院で死亡
2/28B(金)北アルプス乗鞍天狗原付近で男性(43)がスノーボード滑走中に雪崩に巻き込まれる。県警ヘリが救助
2/29B(土)北アルプスフスブリ山で男性(30)が体調不良により行動不能。県警ヘリが救助
注:「*」は遭難発生日以外の通報日、認知日、発見日など、「B」はバックカントリーまたはコース外滑走での遭難
気にかかった遭難事例
●ピンネシリ岳で雪崩、イギリス人男性死亡
2月1日11時40分ごろ、北海道中頓別町ピンネシリ岳(703m)で、バックカントリースキーで滑走していたイギリス人男性(34)が雪崩に巻き込まれて埋没しました。同行者2人と周辺にいたスノーボーダーが初期レスキューを行い、約40分後に2mほどの深さの雪中から男性を掘り出しましたが、すでに意識不明で、蘇生できませんでした。防災ヘリで名寄市の病院へ搬送され、死亡が確認されました。
1月であげたトマム山の事例(コース外滑走)から2日後に発生しました。こちらはバックカントリーでの雪崩遭難事故です。こちらも日本雪氷学会北海道支部、雪氷災害調査チームによる調査速報が公開されています。雪崩の専門的内容まで含む詳細なものです。
調査速報によると、地形全面が雪崩れる大規模なもので、デブリは幅30m長さ300mほどと推定しています。埋没地点は標高348mほど、埋没深約2mとしています。埋没位置特定に30分ほど、掘り出すのに10分ほどかかりました。
パーティは遭難男性とその兄、日本人ガイドの3人でした。頂上付近から滑り出し、最初に男性が滑った後に雪崩が発生したと推定されます。ガイドツアーの場合、滑走の順番はこれで普通なのでしょうか。
また、男性はアバランチエアバッグを装着していましたが、エアバッグが展開したままで2m下に埋没していた(つまり浮力が働かなかった)という情報もあります。エアバッグのような各種装備の発達によって、雪山リスクに対する行動が大胆になっていく傾向がないかどうか、検討する必要があると思います。