前日の石鎚山からの移動は長く、登山開始は8時過ぎになってしまった。土曜日で、登山者が次々に入山している。私の古い考えだと、冬の大山は雪山のハウツーを身につけた中級以上の人でないと登れない(リスクが高い)と思っていたのだが、現実はそうではなく、いかにも初級者という感じの人が普通に入山している。でも、これは想定内だったし、条件のよいときは問題ないというふうに判断しているのだろう。
私の歩くペースは遅く、1時間20分ほどかけて最初の標高差250mを登った。登山口付近は針葉樹が多かったが、しだいにブナを中心とした林相に変わり、新雪をまとった樹林帯が美しい。ただ急いで登るだけではもったいない。
さらに1時間で五合目に着いた。元谷に分岐するルートにはトレースがなかった。このすぐ上が森林限界のようだが、大山は森林限界がかなり低い。
森林限界に出ると急に風が強まるが、時おりガスを通して日がさしかけたり、青空がうっすらとのぞいた。こういう時は雪雲が薄いので、しばらくすると晴れてくるかもしれない。おびただしい数の登山者が列をなして登る。そして、早々と降りてくる人も。上はこんなもんじゃない、もっと風が強いよと言い下っていった。
さらに30分ほどで六合目。避難小屋が完全に雪の下になっている。強風が痛く吹きつけるが、厳冬期ほどではない。頭上に見える白いピークは八合目付近だった(登っているときはわからなかった)。最も急傾斜になる箇所をノロノロと登った。若い人たちが次々に追い抜いていくが、そのつど脇によけて小休止できる。最後は、高齢のご夫婦か、遅出で後から登ってきた人が残った。ガスと強風でご夫婦は厳しそうだ。
だが、ここを登り切ると、とうとう晴れがやってきた。雪山でこういう経験は何度もしてきたように思う。ペースが遅かったのがかえってラッキーになる。
八合目から九合目、広大な大山の頂上台地に出た。悪天候時にはルートロストの危険があることがよくわかる地形だ。すでに下山した人も多いからか、思いのほか混んでいない。
12時30分ごろ、10数人が休んでいる弥山避難小屋に到着。小屋は7割方埋まって、頂上側と九合目側の両方から入口が掘り出され、入ることができるようだ(実際には入らなかった)。すぐ裏手の頂上に登ると、有名な剣ヶ峰の頂稜が飛び込んでくる。文句なしに格好良く、雪の大山を象徴する眺めである。
稜線を少し進んで三角点ピークまで来ると、剣ヶ峰を正面に、北壁を足元に眺められる展望台である。北壁にはバリエーションを登る人たちが固まっている。ここでしばらく写真を撮った。
小屋へ戻り、行動食をまとめ食いした。今ここにいるのは、遅く出発してきた人、ペースが上がらずに遅れて着いた人、北壁登攀を終えてきた人である。多くの登山者はもう下ってしまった。
頂上での時間に満足して、13時10分下山開始。九合目近くで、写真を撮るためかフラフラと稜線の端へ歩いていく男性がいたので、小走りに近寄り、「あまり端に行くと危ないですよ、雪庇なので」と注意した。男性は驚いた様子だったが、コクリと小さくうなずいた。伝わったか心もとなかったので、もう一度「雪庇が出ているので」と言い、それ以上は関わらずに通過。見ると、雪庇の上にいくつか足跡があった。私にとっては(ちゃんと雪山をやってきた人ならだれでも)考えられない行為である。
ルートには標識となるプラスチックの細いポールが立っているが、本当はこの風上(西)側が安全ラインなのだろう。トレースはそのすぐ風下(東)側に踏まれていた。すでに少し危険を冒しているわけである。
すっかり晴れ上がった。大山北面の全貌と、米子あたりの平野と街並み、日本海までが広々と見渡せる。すばらしい景観のなかを自由な気持ちで歩いていく、幸せな下山となった。
[情報]
*冬の気象が一番のハードルだが、ルート自体は滑落などのリスクは少ない。好条件であれば初級者でも安全に登れて、第一級の雪山登山ができるルートである。
*駐車場は登山口近くに南光河原駐車場(58台)、バス停近くに大山博労座駐車場(600台)がある。冬期は1日1000円、3/7以降500円。
*上記が満車の場合、米子側3.4kmの所にある槇原駐車場(1530台、無料)が利用できる。シャトルバスで登山口に移動するため、入山時刻が遅くなってしまう。
*路線バス、タクシー、高速夜行バスも利用できる。
『雪山登山』の訂正点
(1)岡本さんのコースタイム設定は厳しいと思う。登山口~六合目間は登り2時間10分、下り1時間30分に修正。合計6時間30分。
(2)タイトル下の日程:日帰り/約6.5時間
(3)アドバイス:頂上避難小屋の入口は、頂上側と九合目側の両方にあった。メインは九合目側のようで、赤・白のポールが立っていた。
(4)アドバイスに追加:登山届はバス停付近以外に、南光河原駐車場にも投函できるポストが設置されている