取立山の翌日は荒島岳へ。車で勝原(かどはら)登山口への移動は50分ほど、意外に近かった。
勝原ルートの標高差は1200m以上、コースタイム8.5時間の予想である。私の感覚では完全に中級の範囲、しっかりした基礎体力が必要・・・となる。ところが、現実には初級者と思える人も普通に登っているようだった。私の感覚が古くて現実と合わなくなっているのか、それとも現実のほうがリスキーになっているのか。
ともあれ、私自身は油断することなく、けっこう緊張して臨んだのだった。
ここでも整備された無料駐車場が登山口にある。20台以上可能と思われるが、この日は平日にもかかわらず、満車状態になったらしい(後から登ってきた女性が言っていた)。
予定よりも少し遅くなったが、6時20分に登山開始。緩やかに見えるスキー場跡を登っていき、上に行くにつれて傾斜は強まる。見た目よりもきつい。最上部で登山道跡に乗り、右斜上してジグザグを2回くり返すと広い尾根上に出る。ここでひと休み。標高差240mほど登った。多くの人に追い抜かれたが、若い登山者が多くみんなペースが速い。ひと昔前の中高年主体の山ではなくなっている。
細い二次林の樹林帯に入り、30分ほど登るとブナ林に変わった。谷を隔てて遠くに見える小粒な雪山は荒島岳ではなく、小荒島岳だった(後で調べた)。ブナがどんどん立派になっていき、やがて大きな古木も見られるようになった。上部よりも中腹のほうがブナ林は見事だった。
樹林帯に入ってから標高差300mほど登ったところで、木の間越しに白山が見えた。そのずっと左手には目立った白い尖峰が見えるが、経ヶ岳という地元の名峰らしい(これも後で調べた)。ここでロープを結んだ男性2人が登ってきて、リーダー氏「あの山は何ですか?」と聞かれたが、「まったくわかりません」と私。後で調べようと、彼は写真をひととおり撮っていた。
まだまだ先は長いが、尾根の傾斜が緩くなって歩きやすくなった。やがて平坦で広い一帯に出ると、前方に高くて大きい荒島岳が見えた。他のどのピークとも違う、圧倒的な存在感でそびえ立っている。尾根は右にカーブして主稜線へと向かい、シャクナゲ平の急斜面にかかった。標高差約100mの急登をがんばると、ピーク手前でトレースは左へ曲がり、鞍部へと続いていた。そこに、先ほどから前後して歩いていた単独行の女性(この人も初級者っぽい)が休んでいたが、私はもちが壁の下まで行って休憩にした。
もちが壁はこのコース唯一の危険箇所になると予想していたが、急斜面を右側に巻いてトレースが踏まれているので簡単そうに見えた。しかし、念のために片手をピッケルに持ち替えて向かった。転倒すればかなり下まで流されると思えば緊張感が高まる。
すぐ上を先ほどの女性が登っていた。もうすぐ上へ抜け出そうという所で声をあげ、「ええっ!こっちでいいですか」そこはトレースがはっきり2つに分かれている。「そっちでいいですよ。左は下っている別ルートだと思います」と答えた。見ず知らずのオジサンに聞くって・・・しかも、この危ない場所で。
上へ抜け出すとほとんど樹木のない雪尾根になり、遠くまで点々と登山者が登っているのが見える。頂上までまだ標高差300m近く登る。
しかし、もう展望は全開なのであった。晴れる予想を立てて来たのだが、何という幸運、またも晴れてしまった。最高のロケーションの中を登りながら、体は苦しく、いっぱいいっぱいなのであった。一段登ればまた次があり、それを4~5回くり返して、ようやく頂上に着いた。12時20分。先ほどの単独行の女性は、出会った別の女性と意気投合したようで、仲良く並んで腰を下ろしている。「去年の夏に山登りを始めた」との会話が聞こえてきた。「私は2年前、冬山は去年から」とか言っている。
多数の人はもう下ってしまい、おかげでゆっくりと静かな頂上を楽しめる。春霞で山々の輪郭はぼやけてしまっているが、白山は南側から見るようになり別山を従えている。北方には大長山や経ヶ岳、前日登った取立山らしい小ピークも見える。南の岐阜側にも、名前はわからないが、累々と山ひだの連なりが続いていた。
13時すぎ、下山開始。360度の大きな展望のなか、大野盆地に向かって飛び込んでいくような爽快な下りだが、転倒しないよう気をつけなければ。
もちが壁の下りにかかると、この展望ともお別れである。代わってブナの美しい樹林帯に囲まれながら、まだまだ気持ちのよい山の時間を、エンディングまで楽しめるのだった。のんびりと約3時間で下り、登山口駐車場に到着した。
この地方の山は、本格的な雪山ルートでありながら、好条件をとらえれば日帰りで登頂できる。北アルプスなどと比べると取り付きやすく、スノーシューやスキーを使った登山にも向いている。首都圏からは遠いが、複数のルートをハシゴして登ったり、観光も適度に組み合わせれば、楽しみが広がるのではないだろうか。
[情報]
*国道158を東へ進み、勝原駅入口を過ぎて約1.2kmで右折し山側の車道へ入る。約200m先の終点に駐車場、トイレ(冬期閉鎖中)、登山届投函箱がある。
*登山口の駐車場が満杯の場合、大野市では五箇公民館(勝原駅の隣)の駐車場を利用するよう推奨している。
*もちが壁は正面寄りに登ればかなり急傾斜だが、今回は右側から回り込むトレースがあったため簡単に登り下りできた。
*森林限界はもちが壁の上で、森林限界を超えた区間が長いので、悪天候時にはリスクが大きい。上部では東側(山頂に向かって左)に雪庇が出ている。
『雪山登山』の訂正点
(1)マイカー情報:駐車スペースの台数を「約25台」に訂正。満杯の場合は勝原駅隣の五箇公民館駐車場へ。
(2)地図:登山口付近(スキー場跡)の図を現状に合わせて修正。駐車場の位置も移動