北八ヶ岳は好きな山である。雪山入門に適した条件がそろっていて、これほど気構えなく向かえる雪山も少ない。
ロープウェイから北横岳の往復は初めての雪山体験として定番になっている。2回目の雪山はロープウェイから縞枯山、茶臼山と縦走し、日帰りなら西側山麓の五辻を通ってロープウェイに戻るのがいい。麦草峠か白駒の池に1泊して、さらに高見石、中山峠へ歩き続けると、北八ヶ岳の核心部を縦走するルートになる。今回はこのルートだった。
5日11時30ごろ、登山開始。ロープウェイがスキー客で混んでいたため、予定よりも1時間ほど遅れてしまった。ロープウェイの山上駅から外に出ると曇り空で、風も強く寒い。
同行のMさん(女性)は、何年か前に雪山登山を始めて、ガイドの技術講習も受けたと聞いていた。しかし、今回は久しぶりの雪山再開だったのかもしれない。相当ゆっくりなペースで歩いたつもりだが、Mさんはついて来れずに遅れがちだった。
13時に縞枯山到着。本日のルート中、まとまった登りの部分はもう終わりである。稜線に出ると強風にあおられて体が揺れた。Mさんの後ろにつき、ショルダーベルトをつかんで支えながら進んだ。強風の箇所は短く数10mで終わり、樹林帯に入った。
縞枯山の展望台からは北八ツの広い山裾が展望できたが、山頂は雲の中に入ってしまっていて残念。風が強くてゆっくりしていられない。
トレースをしばらく歩くと、直接、茶臼山の展望台に出た(本来は茶臼山山頂からの往復になるはず)。ここは有名な縞枯山の縞枯れ現象を観察できる場所で、北横岳、蓼科山、さらに北アルプス、南八ヶ岳方面の展望もいい。しかし、今日はやはり山裾部分しか見られず、山頂は雲で覆われてしまっていた。
北八ツは樹林の山だが、このように、要所要所に展望のよいポイントがある。奥秩父や南アルプスの樹林帯のように単調ではなく、針葉樹林帯の中にも灌木帯、二次林、溶岩台地、池沼などの変化があって楽しい。
展望台から戻って茶臼山に14時30分ごろ到着、休まずに通過。予定より約1時間遅れのままである。山小屋に「遅くなる」と連絡を入れたほうがいい、とMさん。それから1時間ほどで麦草峠に下りて小屋に電話するが、私の携帯(au回線)は通じず、Mさんの携帯(Yモバイル)で連絡を入れてもらった。
それからが良くなかった。麦草ヒュッテのトイレに入ったMさんが、なかなか戻らない。そのうちに、コーヒーを飲んでいるから入って休んでください、と言いにきた。ヒュッテに入ると、お客さんたちが集まって談笑している。Mさんは皆さんに心配されて、あれこれとアドバイスを受けていたらしい。
麦草ヒュッテで1時間近くロスしてしまい、薄暗くなってきた道を白駒の池へ向かった。青苔荘には日没ぎりぎりに到着。せっかく電話したのに、なかなか着かないので、かえって心配をかけてしまった。
6日、8時に出てゆっくりと森を歩く計画だったが、もっと早く出発してもよかった。
凍結したと思われる白駒の池を歩いて渡り、対岸の白駒荘へ。白駒荘は新館ができてにぎわっている様子だった。
スノーシューにしたのは正解だった。Mさんはしっかりついて来られるようだ。昨日よりも足取りがしっかりしている。アイゼン歩きが苦手か、不慣れなのかもしれない。
昨日からいくらか新雪が降り、気温がだいぶ下がった。悪天候のおかげで、森は薄く新雪をまとって、きれいな冬景色を見せてくれる。白駒の池から丸山にかけては、北八ツの森が深遠さを増し、一番きれいな所だと思っている。
それほど苦労もなく高見石に登れたのでホッとした。Mさんはスノーシューのクライムサポートが楽に登れると感心していた。ところが、それからが少々失敗だった。高見石に登っていてくださいとMさんに言って、私はトイレに入った。ところが、高見石へはわずかな登りだが、凍結していてMさんには危険だった。交替でMさんがトイレに入り、私は高見石を往復してみて、アイゼンが必要なことに初めて気づいた。
戻って、2人ともアイゼンを装着して、あらためて高見石に登った。白駒の池はきれいに見えたが、やはり風が強くてゆっくりと景色を眺めていられない。でも、ここからの白駒の池、北横岳方面、中山方面などの眺めは、北八ツを代表する風景ですばらしい。
戻って、またスノーシューに履き替えるが、Mさんはスノーシューをうまく履けずに苦戦していた。禁じ手だが、私がベルトを締めて装着してあげた。
高見石に約1時間もいてしまった。11時、デッドと考えていた時刻を回った。ここからおとなしく渋の湯に下山すればよかったのだが、予定通りに中山へ向かってしまう。
中山に登るのは久しぶりだ。丸山周辺に比べると樹木は小ぶりなように思えた。森全体が新雪を凍りつかせて、砂糖菓子の森になっている。そこをスノーシューで軽やかに歩いて行く。思い描いたとおりの北八ツの旅になった。時刻が遅めなことを除けば。
思いのほか順調に中山も登り切った。Mさんはだいぶスノーシューに慣れたようだ。中山展望台に出ると、わずかに青空がのぞいた。相変わらず風が強く顔が痛い。しかし、すぐ樹林帯に入れば風は弱まるので、そんなに恐れることはない。
雪で白くなった稲子岳あたりの山腹が見え、中山峠へ向けて下っていくと、左側はちょっと急な崖地形のようになる。「左側が危険なので転倒しないようにしてください」と私。
中山峠には13時50分着。そこから10分以内で黒百合平に出る。ここでまたトイレ休憩だが、Mさんの希望で小屋内に入りお茶休憩にした。あとでMさんは、この休憩でとても助かったと言っていた。私自身は休まなくても歩き続けられるが、普通の人はピッチごとの小休憩だけではつらくて、大休止の時間が必要ということだろう。
小屋には30分ほどいたと思う。もう一度スノーシューを履いて、最後の下りをがんばってもらった。Mさんはバテることもなく、ほぼ予定時間どおり、しっかりと歩いてくれた。
Mさんのために考えた北八ツ縦走だった。もう1日後ろにずれれば晴天になっただろうが、新雪に飾られた北八ツの森もよかったと思う。高見石から渋の湯に下っていれば、時間に追われずに、もう少しゆっくりと歩けたはずである。中山まで足を延ばしたのがよかったかどうかわからない。しかし、Mさんは、とても楽しかったと言ってくれた。
[情報]
*麦草ヒュッテ、白駒荘は、(人気が高いからか?)週末の予約はとりにくい。青苔荘は比較的予約がとりやすいと思う。青苔荘も十分満足できる山小屋だった。
*渋の湯~茅野駅のバスは土日祝と年末年始の運行で、しかも本数が少ないため、雪山登山にはほとんど使えない。タクシーは約40分、約7800円。
*トレースがしっかり踏まれていれば、アイゼンで歩くのがノーマルになっている。私たちのようにメインルートをスノーシューで歩く人は少ないようだった。
*トレースは時々夏のルートからそれている。ある程度、地形図で現在地を確認する作業は必要。地形図を見ないと道迷いのリスクは大きくなると思う。
『雪山登山』の訂正点
(1)アクセス:茅野駅~ロープウェイのバス約55分、渋の湯~茅野駅のバス約57分(土日祝日のみ運行)。渋の湯~茅野駅のタクシー約40分、約7800円。
(2)マイカー情報:渋の湯~ロープウェイの回送タクシー約35分、約7600円。
(3)問合せ先:青苔荘、白駒荘の電話マークに「*」(要予約)を記入。高見石小屋の現地電話080-2188-4429、「白駒荘は正月明け~4月は予約時のみ営業」の部分を削除。
(4)地図中:白駒荘の記号を「営業小屋」に変更。