『山と溪谷』2019年1月号掲載

『山と溪谷』2009年1月号への掲載報告です。
(1)平成遭難史まとめ P68-69
本号は平成最後の年にあたっての平成まとめ特集です。いろいろな見方があるでしょうが、ここでは、平成とは山の遭難が約600件(平成元年)から2600件(平成29年)に激増した時代だということを言っています。内容つめ込みすぎでまとまりに欠けますが、ご一読のほど。

今号の第1特集「登山の現在形」より

(2)小室川谷ヘリ二重事故(2017.5.14)の事故調査報告書公表
   ― ヤマケイ・ジャーナルのニュース P178
事故発生当時もあまり大きく騒がれなかったと記憶しています。ヘリの事故で要救助者が死亡するというとても辛い事故でした。逃げることも隠すこともせずに、きちんと客観的な報告書が公開されました。事故報告は主観をはさまずに、客観的な事実に沿って行われることが重要です。遭難報告ではそういう点に注意しながら見ていきたいと考えています。

ヤマケイ・ジャーナルのアクシデントコーナー

(3)丹沢遭難発生マップ(2017年度) P14-149
丹沢の遭難発生マップが世に出るのは2014年以来4年ぶり。何とかくい下がって情報を提供してもらえました(提供する側にとっては大変手間のかかる作業と思います)。毎年継続できるといいのですが。。。マップはやや見づらいと思います。申し訳ございません。大山と塔ノ岳に集中していますので、この周辺を拡大図にするべきでしたが時間的余裕はありませんでした。後半は事例紹介ですが、近ごろ問題を感じる「バリエーションルート遭難」をあげています。遭難はきわめて身近にあることが理解してもらえればと思います。

丹沢遭難発生マップ、さらなるシェイプアップが望まれます
丹沢遭難の事例紹介、客観的な記述を心がけています

(4)『55歳からの やってはいけない山歩き』がブックコーナーに取り上げられました。評者はFB友でもある熊沢さん。ありがとうございました。本来の内容は軽いテーマではないのですが、販売上ビギナー向け「軽い本」のカタチをとっています。ヤマケイさんの書評欄に取り上げられるのは光栄でもあり、うれしいことでした。

ヤマケイ・ジャーナルのブックレビュー

(5)付録・山の便利帳
登山行程図、グレード表、登山条例などを担当してまとめています。今の時代、どちらもけっこう大事な情報ですよね。グレード表は突っ込んで調べていくと、地域でしか知られない山やルートが出てくるので興味深いものでした。

1月号表紙と山の便利帳(新規追加した大雪山グレード)

compassで登山届を提出してみた

自分はいちおう社会人山岳会に入っているので、これまでは山岳会仕様の「登山計画書」を書いて、そのコピーを「登山届」として警察(つまり登山届ポスト)に出してきました。そのやり方にすっかり慣れていて、短時間で簡単にできるのですが、今回あえてcompassで登山届を提出してみました。
日本山岳ガイド協会の運営するcompassは、多数の自治体や警察と連携しています。神奈川県警もcompassと協定を結んでいるので、compassに登山届を提出すると神奈川県警にも同時に提出したことになります。
結論を先に言うと、compassでの登山届は期待したほど簡単ではなかったです。登山者の側からみて、紙の登山届より簡単にできる、山岳会の届出よりも便利、ということはないでしょう。
IT技術を使っても、登山計画書を作って登山届を出すということは、やはり初心者(あるいはベテランでもこの方面の意識が弱い人)には高いハードルではないかと思います。
前言が長くなってしまいましたが、compassの手順を具体的に説明してみます。

(1) 会員登録
compassはSNSです。最初に会員登録をして、ID(メールアドレス)とパスワードを設定します。登録のときに、氏名、生年月日、性別、血液型、住所、電話番号を入力します。以上の個人情報は必須ですが、氏名以外は非公開になっています。

(2) 登山計画―ルート作成
マップから作成する方法と、フォームに入力する方法があります。ここではマップ上で作成する手順をやってみます。すみませんが、画像は皆無です。
マップ画面を開くと、地理院地図に赤線ルートが引かれた状態で読み込まれます。左上の「地点」をクリックすると、記号で地点情報が表示されます。記号をクリックすると右上のウインドゥに情報内容が表示されます。遭難事例の情報まであります。
左上の「計画」をクリックすると、黄色円の地点マークが散在するマップに変わり、右上のウインドゥは「計画作成」タブに切り替わります。赤線のルート上にカーソルを持ってくると連続した黄色のマークが出ます。地点登録したい場所にカーソルを移動し、1回クリックすると、右上のウインドゥにその地点が登録されます。その地名が出る場合もありますが、多くは「名称未設定」です。地名はあとで自由に入力することができます。
最初に地点登録すると青で「入」マークになり、2番目の地点を登録すると青で「下」マークになって、その区間が青線に変わります。3番目の地点を登録すると青で「下」マークになり、先ほどの2番目は「1」に変わります。以下、登録地点が増えるごとに青の番号・記号が追加されていき、青線でルートが示されます。ルートがまちがっているときは、経由地を追加して修正します。

(3) 登山計画―時刻設定
3つ以上の地点が設定されるとルートが成立し、適当な時刻があらかじめ記入されています。青の「設定」ボタンから「入山年月日」をクリックして入山年月日を入力します。「下山年月日」をクリックして下山年月日を入力します。
また「設定」-「タイム計算」をクリックすると、デフォルトの時刻設定倍率を変えることができます(0.7~1.3倍の間)。ちなみに、時刻設定は休憩時間を含むもので、1.0倍でも比較的ゆるめの設定になっているように感じました。
次に、各地点の右にある鉛筆マークをクリックすると地点ごとのウインドゥが開き、地点名、着時間、発時間を変更することができます。時刻は論理的に矛盾しないかぎり、自由に決められるようです。
全地点の設定が終わったら、下の「次へ」をクリックして「情報入力」へ進みます。

(4) 各種の情報入力/第1面
マップ画面は終わり、ここからはフォームの入力になります。グループ(任意)、山名・目的(必須)を入力または選択します。グループは、デフォルトで「なし(個人)」が入っています。
入山口、経由地、泊地、下山口は、先ほどマップ上で設定した内容が入っています。ここで変更することもできます。
最後に「エスケープルート」があります。これは、エスケープルートの意味と必要性が理解できないと決められない項目です。エスケープルートの意義を理解してもらって、ぜひ設定できるようになってほしいと思います。

(5) 各種の情報入力/第2面
食料・装備内容を入力します。行動食の「~回分」はわかりにくいところです。1日分用意した行動食を1回分と読み換えてもいいでしょう。日帰りで「昼食+行動食」持参なら、食料1食、行動食1回分です。1泊2日で「行動食、夕食、朝食、行動食」持参なら、食料2食、行動食2回分です。
このほかに、無線機の有無、山岳関連団体への加盟、山岳保険(制度)への加入を入力します。

(6) 各種の情報入力/第3面
同行者・緊急連絡先について入力します。同行者については、同行者人数、同行者名(カタカナ)、性別、メールアドレスを入力します。メンバー全員の個人情報を記載していた方式に比べるとかなり簡略化されています。
緊急連絡先は、名前、電話番号、メールアドレスを入力します。複数の緊急連絡先を設定することもできます。
※緊急連絡先は登山計画の最重要項目の一つと言えます。自分の登山を理解してくれる人に登山内容を知らせて出かけるというのは、遭難対策をするうえで非常に重要なことです。

以上で入力が終わり確認画面に進みます。入力内容をひととおり確認して「登山届を提出」をクリックすると、登山届がcompassに提出されます。

(7) 登山届提出後
登山届を提出するとcompassから受付メールが届きます。そこには登山計画の登録ナンバーとともに、下山通知をするURLが記載されているので、そのメールを携帯電話に転送しておきます。下山したらできるだけ早く、そのURLにアクセスして下山通知をします。下山通知はボタンをクリックするだけで簡単にできます。
compassは下山通知を受け取ると、それを緊急連絡先に転送します。
compassは、下山予定時刻より3時間以上過ぎて下山通知がない場合、申請者へ確認メールを送ります。また、下山予定時刻より7時間以上過ぎて下山通知がない場合、緊急連絡先へ通知します。

このように優れた遭難対策のシステムなのですが、入力項目が多く、短時間で簡単にできるわけではありません。エスケープルートや緊急連絡先の設定などは、登山計画と遭難対策について一定レベルの理解力が必要になります。そういう点で、これから山歩きを始めようというビギナーには少々ハードルの高いものだと思います。
しかし、登山のリスクをよくわかっていて、入力作業が抵抗なくできる人には、とても便利なシステムだと思いました。

丹沢大山に登ってきました

10月16日(火)丹沢大山に登ってきました。
火曜日だというのに、ヤビツ峠行きのバスは満員で、立っている人も。
ヤビツ峠からイタツミ尾根を登れば標高差500m、頂上まで1.5時間程度のコースです。ときおり展望が開けると湘南の海岸線が眼下に見えます。表参道を阿夫利神社下社に下りました。神社周辺の杉林は立派でした。樹齢600~800年の古木もあるらしいです。
けっこう遅い時刻まで、軽装の人も次々に登ってきていました。
ほとんどの人はケーブルで上り下りしています。女坂を歩いて大山寺経由で下りました。
[データ]
コースタイム2.8時間、ルート全長5.8km、登り標高差507m、下り標高差960m、ルート定数12.5/体力度2
(コースタイムは「山と高原地図」、距離・標高差は「カシミール3D」で計測しました)

01:イタツミ尾根上部から相模湾

02:大山山頂(少し手前)

03:「ぼたん岩」の表示あり。広沢寺弁天岩と同じ岩質

04:下社近くの杉林

05:阿夫利神社下社。観光客や園児の遠足でにぎわっていた

06:女坂途中にあったお墓で

07:無縁墓地

08:ケーブル下駅から茶店の間を下る

大雪・愛山渓二重事故の事故調査結果

[7/24~30の遭難関係ニュースから]
7月24日(火)、北海道旭川市消防本部は、6月23日に愛山渓村雨の滝で遭難者の救助活動にあたっていた男性隊員(32)が雪渓上で滑落し、意識不明となった二重事故について、事故調査結果を発表しました。それによると、男性隊員の主な役割は応急救護や搬送作業で、登山靴などは貸与されておらず、当日も平地で使用する靴を履いていたとのことです。軽アイゼンがあったもようですが、2人とも装着していませんでした。
なぜ、山岳救助専門の研修・訓練を受けていない隊員を派遣したのか、指示系統などの問題点は明らかになっていません。派遣理由については、「現場は登山道で、山岳救助の専門知識を必要としない遭難者の救命措置と搬送業務になると判断した」と説明しています。
同消防本部では2014年から山岳救助支援隊員の養成に着手して、2人が国立登山研修所の研修を受講し、6人が東京消防庁などの救助訓練に参加しましたが、滑落した男性隊員はどちらも受けていなかったそうです。

◆各地で夏山の遭難事故が発生しています。富山県では7月に入って登山事故が多発し、24件26人(7/1~25)の発生数は、昨年同期の3倍になっています。県警担当者は、「猛暑で登山者の集中力が低下していた可能性がある」と指摘しています。

◆埼玉県で、ヘリ救助手数料の徴収事例が1月以降3件あったことが発表されました。1月二子山(60代男性)、3月両神山(50代男性)、5月日和田山(40代女性)の3件。

7/24(火)榛名・相馬山で滑落死した男性(64)を発見。山頂北側崖下200~300m地点
7/24(火)北ア・唐松岳で男児(12)が体調不良。ヘリで救助
7/24(火)鈴鹿山系水無山で女性(45)の滑落した遺体発見
7/25(水)南ア・観音岳で男性(63)が浮き石で転倒、重傷。ヘリで救助
7/25(水)北ア・唐松岳で男性(68)が転倒、負傷。ヘリで救助
7/25(水)北ア・蝶ヶ岳ヒュッテで女性(50)が体調を崩し行動不能。7/27ヘリで救助
7/25(水)22日にK2登頂に成功した「北日本海外登山研究会」の男性隊員(41)が、下山中に滑落し行方不明になったことが明らかになる
7/26(木)南ア・大門沢登山道で男性(72)が滑落、重傷のもよう。ヘリで救助
7/26(木)北ア・北又小屋付近で、学校行事に参加していた女子生徒(14)が滑落、重傷。ヘリで搬送
7/26(木)北ア・白馬大雪渓岩室付近で男性(77)が転倒、負傷。ヘリで救助
7/26(木)北ア・白馬大雪渓葱平付近で男性(68)が体調不良により行動不能。ヘリで救助
7/27(金)北ア・涸沢上部で男性(79)が疲労により歩行困難。県警救助隊が救助
7/27(金)南ア・北岳二俣分岐で女性(64)が転倒、重傷。ヘリで救助
7/27(金)南ア・北岳山荘で男性(60代)が足の痛みを訴え行動不能
7/28(土)北海道ニペソツ山で親子(男性46・11)が道迷い遭難。ヘリで発見救助
7/28(土)富士山御殿場口六合目で、安全誘導員の男性2人が強風で動けなくなり救助要請。救助後に男性(71)の容体が急変し、低体温症で死亡
7/28(土)妙高山赤倉登山道付近で男女(40代)が道迷い遭難。ヘリで救助
7/28(土)北ア・白馬大雪渓で女性(63)が疲労により歩行困難。救助隊が救助
7/28(土)北ア・槍ヶ岳北鎌平付近に倒れた男性(69)の遺体発見。死因は低体温症
7/28(土)北ア・燕岳富士見ベンチ付近で女性(35)が転倒、重傷。救助隊が救助
7/28(土)屋久島の安房川で沢登り中の女性(27)が急流に流され行方不明
7/29(日)飯豊・石転び雪渓で男性(70)がルートを迷い救助要請。7/30ヘリで救助
7/29(日)北ア・白馬大雪渓葱平付近で男性(71)が落石により負傷。ヘリで救助
7/30(月)北ア・不帰2峰北峰付近で男性(60)が行動不能。遭対協隊員らが救助
7/30(月)北ア・八方池山荘で女性(76)が転倒・負傷。遭対協隊員らが救助

富士山の道迷い対策事業で実証実験

[7/17~23の遭難関係ニュースから]
富士山で登山者の位置情報データを収集する実証実験が行われるそうです。
富士山の4ルート各五合目で、登山者に小型のビーコン(発信機)を配ります。一方、各ルートの五合目~山頂間計50カ所に、ビーコンの電波を受信する装置を設定します。受信装置でビーコン番号や通過時刻を記録・収集しながら、登山者本人もスマートフォンで位置情報を確認できます。
ビーコンは約7000個を用意しており、夏山シーズン中の富士登山者は1日最大6000人程度ということなので、ほぼすべての登山者に配ろうという大規模な調査です。
調査期間は8月18~27日、午前8時から夕方まで。調査は総務省の委託を受けて、一般社団法人「富士山チャレンジプラットフォーム」や山梨県など5団体が行います。
登山者の道迷い対策はもちろんですが、道標などの整備計画への指針、災害関連情報(たとえば噴火)の伝達など、多方面の利用が期待されています。

富士山チャレンジ2018のチラシ

7/16(月)南アルプス薬師岳で男性(57)が下山中に転倒重傷
7/16(月)南アルプス北岳で男性(57)が下山中に転落軽傷
7/16(月)南アルプス北岳で男性(42)が腰の痛みを訴え救助要請、病気要因のもよう
—- 以上は前回把握できていなかったもの —-
7/17(火)山梨県早川町の沢で男性(59)の遺体発見。13日に塩見岳へ入山した行方不明者
7/17(火)八ヶ岳・赤岩ノ頭付近で女性(47)が転倒重傷、ヘリで救助
7/17(火)中央アルプス越百山東面で男性(35)が道迷い遭難、ヘリで救助
7/18(水)妙高山燕新道の大倉沢付近で男性(60代)が道迷い遭難、ヘリで救助
7/18(水)北アルプス槍ヶ岳で男性(29)が疲労により行動不能。19日ヘリで救助
7/18(水)六甲・芦屋ロックガーデン方面へ入山した男性(74)が行方不明
7/19(木)北アルプス爺ヶ岳で女児(12)が体調不良により行動不能、ヘリで救助
7/19(木)北アルプス北穂高岳で男性(74)が疲労により行動不能。20日ヘリで救助
7/19(木)北アルプス奥穂高岳で男性(72)が足首を捻り負傷。常駐隊員が救助
7/19(木)北アルプス西穂稜線の間ノ岳で男性(62)が滑落、20日に遺体発見
7/19(木)マッターホルンの標高約4100mで、14日、日本人男性(67)の遺体発見。この日スイス警察が発表
7/20(金)北アルプス槍ヶ岳で女性(69)が転倒重傷、ヘリで救助
7/21(土)南アルプス前衛の櫛形山で男性(61)が道迷い遭難、22日救助
7/21(土)八ヶ岳・赤岳で男性(70)が転倒重傷、ヘリで救助
7/21(土)北アルプス白馬乗鞍岳で男性(58)が雪渓上で滑落負傷、ヘリで救助
7/21(土)北アルプス北穂高岳で男性(85)が滑落負傷、ヘリで救助
7/21(土)北アルプス常念岳で男性(82)が転倒負傷、女性(22)が体調不良で行動不能。いずれもヘリで救助
7/21(土)福岡市の油山で男性(90)が道迷い、下山せず行方不明
7/22(日)南アルプス尾白川渓谷の錦滝で倒れた男性(75)を発見、頭部外傷で死亡
7/22(日)志賀高原裏志賀山で男児(10)が転倒負傷、ヘリで救助
7/22(日)長野県飯田市の梶谷川沿い山林内で渓流釣りの男性(85)が行方不明。警察・消防により無事発見
7/22(日)北アルプス燕岳で男児(9)が体調不良により行動不能、遭対協隊員が救助
7/22(日)北アルプス蝶ヶ岳で男性(58)が転倒負傷、県警救助隊が救助
7/22(日)対馬・白嶽でツアー参加者の韓国人男性(58)が行方不明、23日ヘリが発見救助

夏山シーズン始まり、北鎌尾根で30代男性が滑落死

[7/10~16の遭難関係ニュースから]
夏山シーズンに入り、平地では猛暑ですが、山上では登山日和の好天が続いているようです。7月14~16日の「海の日」連休を中心に、多くの山岳遭難事故が起こりました。現在のところ、死亡事故は、7月15日に槍ヶ岳北鎌尾根で起こった30代男性の滑落事故だけとなっています。
蔵王山中の濁川では性別不明の遺体が発見され、先月から行方不明になっていた20代男性登山者のものとわかりました。発見場所は熊野岳登山口から約3km地点と報道されていましたので、カモシカ尾根の取付点付近ではないでしょうか。
なお、7月10日にはタイ北部の洞窟に取り残されていた少年らが全員無事救出され、世界的なニュースとなりました。救出方法・タクティクスなどに、山岳遭難にも通ずるヒントがあるかもしれません。

蔵王・濁川源頭部「大黒天」のあたり

7/10(火)中央アルプス・将棊頭山で男性(66)が道迷い遭難
7/10(火)タイ北部チェンライの洞窟に最後まで残されていた少年ら5人を救出。事故発生から18日目にして全員救出に成功
7/11(水)白馬大雪渓上部で外国人男女(19・20)が滑落、救助隊が同行下山
7/11(水)文部科学省で「全国山岳遭難対策協議会」開催される
7/13(金)至仏山から下山中の女性(66)が木の根に足をとられ転倒骨折、ヘリで救助
7/13(金)鹿島槍ヶ岳で男性(59)が滑落負傷、遭対協が救助
7/14(土)蔵王山中濁川の河川敷で白骨化した遺体発見。6/26から行方不明の男性(27)
7/14(土)大川入山(長野県阿智村)で男性(57)が転倒負傷、ヘリで救助
7/14(土)白馬乗鞍岳で男性(66)が転倒負傷、ヘリで救助
7/14(土)燕岳で女性(58)が体調不良により行動不能、ヘリで救助
7/15(日)福島県南相馬市の山道で男性(56)が滑落負傷、ヘリで救助
7/15(日)奥秩父・廻目平付近の岩場でクライミングの男性(47)が転落負傷、ヘリで救助
7/15(日)剱岳2650m付近で落石事故、男性ガイド(60代)と女性(50代)が重傷
7/15(日)西岳・水俣乗越付近で男性(50)が転倒負傷、ヘリで救助
7/15(日)槍ヶ岳北鎌尾根2500m付近で倒れた男性(36)を発見、翌日ヘリ救助後に死亡確認
7/15(日)前穂高岳で男性(50)と男性(68)がそれぞれ滑落負傷、ヘリで救助
7/16(祝)富士山吉田口下山道七合目付近で男性(10代)が鎖骨骨折など(滑落事故か?)
7/16(祝)白馬岳で男性(64)が疲労のため行動不能、常駐パト隊などが救助
7/16(祝)常念岳で女性(38)が右足骨折、ヘリで救助

穂高岳山荘の小屋番、宮田八郎さんが遭難死

[7/3~9の遭難関係ニュースから]
7月5日の大雨の日、沼津港沖で発見されていた男性遺体が、穂高岳山荘小屋番の宮田八郎さんであることが、静岡県警からご家族に伝えられました。
これを受けて、6日、宮田さんのブログ『ぼちぼちいこか』に、山荘スタッフによると思われる記事がアップされました。そして、マスコミ各紙では7日に報道されました。

宮田さんは4月5日、山岳ガイドの木村道成さんと2人で、南伊豆町からシーカヤックで海に出たまま行方不明になり、3日後に木村さんだけが遺体で見つかりました。その後も山荘関係者や仲間たちが捜索を続けていましたが、5月23日に着衣などから宮田さんの可能性が高い遺体が発見されていました。

宮田さんは、穂高岳山荘の仕事のかたわら、写真と映像制作を続けていました。山荘に常時いる人ならではの美しい画像・映像のかずかずを公開して、私たちに山のすばらしさを伝えてくれました。その一端は、山荘公式サイトで見ることができます(クレジットはないですが、宮田さんの作品でしょう)。また、宮田さんの「ハチプロダクション」で、映像作品その他を購入することもできます。
宮田さんのブログでは、山荘経営とは少し異なる、宮田さん個人の視点からの発言がありました。山荘スタッフから見た「近ごろの登山者は?」というような興味から、私も時々フォローさせていただきました。すなおに共感できるところが多く、面識はなかったですが、旧知の間柄のような感覚で読むことができたものです。
なかでも遭難救助に関わった時の切迫した記事、今どきの問題ありな登山者を叱咤する記事、そういう描写の底に流れている、山と人間を何よりも大切に考えている感情に、宮田さんの本質が出ていたように思います。
宮田さんがマンガ『岳』のモデルだったということは、今回の報道で初めて知りました。そうでなくとも、宮田さんのファンは多かっただろうと思います。
宮田さん、どうぞ安らかに。

穂高岳山荘HP、トップページより

7/3(火)オーストラリアのエアーズロックで日本人男性(76)が倒れ、病院で死亡
7/4(水)北海道の狩場山で東京から訪れた男性(69)が遭難し、翌日発見される
7/5~8 西日本豪雨:9日に気象庁が「平成30年7月豪雨」と命名
7/6(金)「大雨特別警報」―福岡、佐賀、長崎(17:00)、広島、鳥取、岡山(19:30)、京都、兵庫(23:00)
7/7(土)「大雨特別警報」―岐阜(12:50)
7/8(日)「大雨特別警報」―高知、愛媛(5:50)
※消防庁発表によると、7月11日現在、死者168人、行方不明者57人、負傷者139人、全半壊住家135棟など。夏山登山は各地の状況に注意を要するが、情報把握はまだほとんど不可能。

長野県消防学校に全国初の「山岳救助科」

[6/26~7/2の遭難関係ニュースから]
長野県の消防隊員の教育・訓練を行う消防学校に、全国で初めての「山岳救助科」が新設されました。
6月27日に入校式が行われ、県内12の消防から志願した36人の隊員が参加しました。定員は20人でしたが、希望者が多く、座学のみ定員外16人の受講を受け入れたそうです。受講期間は29日までの3日間でした。
どんなことを学ぶのでしょうか?
・山岳地帯での医療、気象、地図の読み方
・ロープによる確保の方法
・岩場での遭難者の搬送方法
というようなことが、報道ではあげられていました。
たとえば、5人1組になり、10数メートルの岩場で滑落した要救助者を1人が背負い、4人が引き揚げたり、担架に固定して搬送したり、という実技内容がありました。
今回、ここで学んだ皆さんは、各消防に戻って伝え、山岳救助の方法を話し合いつつ、実際の救助に生かしていくそうです。
これまでは、全国対象の国立登山研修所(富山県)の研修で、年1回、各都道府県から1~2人しか受講できませんでした。それに比べれば、「山岳救助科」開設で、山岳救助技術の習得環境が大きく充実することになりました。

余談ですが、20~30年前までは、私たちが入っていた山岳会でもこういうことを学んだり、練習して習得しようとしていたものです。しかし、現在の登山ブームの中では、登山を楽しむ人と、山岳レスキューをする人とが、はっきりと分かれてしまいました。

日本山岳文化学会の遭対関係イベントにて(本文とは関係ありません)

6/26(火)蔵王連峰へ入山した男性(27)が戻らず行方不明
6/29(金)大東岳で男性(27)が道迷い。消防ヘリで発見救助
6/30(土)甲斐駒ヶ岳で女性(38)が歩行困難となり、7/1救助
6/30(土)北穂高岳で女性(25)が行動不能
6/30(土)東京都内で長野・富山・岐阜3県による北アルプス安全登山セミナー開催
7/1(日)笠ヶ岳に入山し6/26に下山予定の男性(40)が行方不明
7/1(日)台高・宮ノ谷渓谷の高滝登山道で男性(75)が滑落、死亡
7/1(日)六甲山中の滝つぼで男性(57)の遺体発見。当日朝入山したもの

1年間合計の遭難発生数は2583件・3111人、過去最悪

[6/19~25の遭難関係ニュースから]
2017年度の山岳遭難統計が発表されました。警察庁のこの統計は、1961年から続けられています。
表1 概要(発生件数・遭難者数の推移):10年間
表2 都道府県別状況
表3 目的別山岳遭難者:5年間
表4 態様別山岳遭難者:5年間
表5 年齢層別山岳遭難者:5年間
表6 年齢層別山岳遭難者(死者・行方不明者):5年間
表7 単独登山者の遭難状況:5年間
表8 通信手段の使用状況:10年間
このうち一番基本的なものは、表1(全体)、表4(態様別)、表5(年齢別)だと思います。以下、解説します。

過去10年間の山岳遭難発生状況(原本の表1)

[表1からわかること]
発生件数、遭難者数とも過去最多(最悪)になりました。死亡・不明者数354人も最多です。いわゆる「無傷救出」で発生数が膨れ上がっているだけかというと、そうではありません。死亡・不明・負傷者が1562人(50.2%)にのぼります。遭難して実被害を受けた人数です。実は、昨年度はわずかに減少したので、遭難減の流れに変わるのかと思いました。しかし、そうではありませんでした。

年齢層別遭難者数(原本の表5)

[表5からわかること]
遭難の一番多い年齢層は60代、次が70代です。しかし、3年前と比較して増減を検討すると、増加率の高いのは70代・80代です。10代も大きく増加していますが、これは3月に起こった那須雪崩遭難(1件で48人が遭難)の影響です。
高齢登山者への遭難対策は、登山界での一番の課題だと思います。
20代、40代、50代は、平均的な増加幅です。
30代と60代は減少しています。遭難が全体に増加している中での減少ですから、何か理由があるはずです。(1)登山人口減、(2)遭難対策の効果が表れた、のいずれかでしょう。

態様(原因)別遭難者数(原本の表4)

[表4からわかること]
「態様」とは、遭難の種類というような意味です。
この比率は毎年だいたい同じです。多い順に「道迷い」「転・滑落」「転倒」「病気/疲労」となります。登山というのは、これだけ多くの危険の中で行われるものだとも言えます。これらの危険をどうやって回避すればよいか、登山雑誌、山の本、TVなどのマスコミは、もっとそういうテーマを取り扱う必要があるでしょう。

スマホを利用した登山者自動位置確認システム、実証実験中~2020年末まで

[6/12~18の遭難関係ニュースより]
6月3日に夏山開きがあった中国地方の大山で、スマートフォンのアプリで登山者の位置を確認するシステム「MAPS」(マップスと読む)の実証実験が行われたそうです。実際にそのシステムを使って大山登山をした記者の体験記が、毎日新聞6月15日付に載っていました。

このシステムは、日本山岳ガイド協会の登山届管理システム「コンパス(COMPASS)」と連携しています。
まず、コンパスの会員になって、あらかじめ登山届をしておきます。
それから、スマホに「コンパスアプリ」をインストールしておきます。

記事によれば、実際の登山では次のように使います。
(1)スマホのアプリにログインし、提出中の登山計画から「登山スタート」ボタンを押します
(2)スマホのGPSとBluetooth機能をONにしておきます
(3)登山中に「スマート道標」近くを通過すると、
・システムのサーバーに、登山者のIDと通過時刻が記録されます
・登山者のスマホに、付近の画像や気象情報、安全情報などが表示されます
(4)下山したら、「下山通知」ボタンを押すと、下山届をしたことになります
・下山予定時刻を3時間過ぎても下山届がない場合、本人に安全確認のメールが送られます
・下山予定時刻を7時間過ぎても下山届がない場合、「緊急連絡先」にガイド協会から報告されます
大山の場合、「スマート道標」は夏山登山道三合目、七合目、行者谷別れ、九合目、行者谷1200m地点、烏ヶ山新小屋峠、烏ヶ山南峰、以上7カ所に設置してあるそうです。

スマート道標の情報表示(毎日新聞より)

このシステムは、富士山、浅間山、那須岳に続いて、大山が4例目になります。
実証実験をしている「全国山の日協議会」は、スマート道標の設置数をさらに増やしつつ、2020年末まで実証実験を続けて、実用化をめざすということです。

このように、整理して説明すると有望な遭難防止システムと思えるかもしれません。でも、ネックはスマホそのものにあるような気がします。
「コンパス」というSNSの会員になること自体が、いやだという人もいるでしょう。スマホとかSNSというものは、ある種の人々にとっては近寄りがたいハードルです。
そして、コンパスで登山計画を作って、登山届をするという操作は、それほど簡単ではありません。PCでもそう感じますから、スマホだといっそう困難ではないでしょうか。