この週末の天気は、金曜日から土曜日が晴れ、日曜日は崩れる予報でした。8日(金)に遠見尾根を登り、9日(土)に五龍岳をアタックする計画を立てました。9日さえ晴れてくれれば成功するはずですが……? いずれにせよ、雪山の五龍岳登山としては1泊2日はギリギリの日程です。何か一つブレーキになる要素があれば登れないでしょう。過剰な期待は禁物です。
3月8日(金) 雪のち晴れ
新宿から白馬八方行きの高速夜行バスを使い、早朝6:10に神城駅近くに着きました。白馬五竜スキー場のテレキャビンとリフト1基を乗り継いで地蔵ノ頭の直下まで上がり、地蔵ノ頭を左側に回り込んで、バックカントリーの入山口から入山します。
天気は雪。最初からラッセルになりました。日帰り装備の男性と2人で交代しながらラッセルして行きました。彼は最初アイゼンで歩き出したほどですから、ラッセルは想定していなかったでしょう。途中でもう1人、日帰りの男性が追い付いてラッセルしてくれました。この男性も日帰り装備、ラッセルを先頭でするのは初めてと言っていました。
1950mの肩まで登り、小遠見山を目前にした平坦な稜線に出たところで、男性2人は来なくなり引き返したようでした。一人になり、小遠見山の手前まで来ました。後ろに何人かのグループが来ているのがわかりましたが、私は超スローペースなのに一向に近づいて来ません。ラッセル泥棒のように感じられて気分のよいものではありませんでした。
ピーク直前でパスして巻き、下り切った所で振り向くと、小遠見山に人影が見えました。スタートが9:20、この時点で14:00近くになっていました。入山口から約4時間半かかっています。夏時間の約3倍でした。この日は西遠見山の予定で、最低でも大遠見山に泊まりたかったのですが、これで登頂は難しくなったと思いました。
テントを張ってから空身でラッセルを進めました。中遠見手前の稜線はスノーリッジのようになっていて、左側(南)を巻けばよいのだと気づくのに時間がかかりました。稜線から右側(北)にかけて吹き溜まりが形成されており、稜線の右側を風上と考えてルートをとるとラッセルは深くなります。雪崩や滑落が危険でなければ、吹き溜まりを避けて左側(南)にルートをとれば効率化できます。中遠見のこの部分は、遠見尾根中で少し危険な場所でしたが、トレースが踏まれてしまえば危険性に気づかないでしょう。
1時間半ほどラッセルして中遠見山までしか進めませんでした。眺望のすばらしいピークを1人で独占していました。17時になったので引き返しましたが、戻りはテントまで20分ほどでした。
3月9日(土) 快晴
テントをベースに行ける所までで引き返します。軽い荷物にしたいところでしたが、8mmロープなど登攀用具も持ちましたので、そこそこの重さになりました。
すばらしい天気になりました。日の出30分前に出る予定が少し遅れて、中遠見山の手前でご来光になりました。五龍~鹿島槍、キレット東面が朝日に染まりました。この景色を見られたのは私と、小遠見山に泊まった人だけです。
中遠見からラッセルが始まりました。下り切った所で期待していなかった後続の3人が追い着き、ここまでのラッセルのお礼を言われました。「あとはこちらでやります」と言ってくれました。若い3人はその後、私が追い着けないくらいのペースでラッセルして行きました。
遠見尾根は何度か登り下りしましたが、これほど晴れたのは初めてです。五龍~鹿島槍は先へ行けば行くほど近づいて圧倒的な迫力です。遠見尾根からこの景観を見ると、後立山連峰の盟主は白馬岳よりも五龍・鹿島槍なのだと強く感じさせられます。
大遠見山の前後は平坦な広い稜線で、西遠見の手前まではどこでもテント場になりそうな地形でした。西遠見の池がある付近で彼らは小休憩し、それから西遠見へ登って行きました。西遠見自体は強風帯で樹木は低く、風を避けられる場所はありません。下った白岳の取付では、左側の白岳沢源頭から強風が吹き下ろしてきます。
50~60m(標高差)上を先行している彼らを見ながら、私はそこでアイゼンに替えるかどうか思案しました。彼らの様子を見るとラッセルが深そうでアイゼンの状況ではありません。しかし、スノーシューはいずれ無理な傾斜になるでしょうから、そのときにアイゼンに替えられる安定した場所がとれるかどうか。見たところ雪崩の危険も考えなくてはなりません。
私はここで登頂を断念して引き返すことにしました。時刻は10:00でした。
(1)白岳へ2時間以上はかかりそう。……早くて12:00着
(2)五龍岳への登頂に2時間はみる必要がある。……早くて14:00着
(3)下りは白岳へ1時間、西遠見へ1時間、テントまで1.5時間。……最も早くて17:30着
こういう計算を頭の中で行いました。ギリギリすぎる時間ですので、やはり実行してはいけないことでした。
写真を撮りながらゆっくりと下り、西遠見の池へ戻って休憩しました。こうして晴天の遠見尾根を歩けること自体、何より幸せなことです。
ふたたび歩き始めると、大遠見との中間地点で登ってくる人に初めて出会いました。それから次々に人が現れ、大遠見では多くの登山者が休憩していました。ちょうどお昼の時間でした。スキー場を8時半に出発したとして、3時間半で大遠見まで来られるわけです。それが私と彼らが踏んだトレースのためだと考えるのも、なかなか得がたい感情ではありました。
中遠見へ向かっているとき、見覚えのある顔立ちの人物から声をかけられ、ラッセルのお礼を言われました。その人は小遠見で雪洞泊し、隣でテント泊していた3人にラッセルのお礼を言うと、自分らではなくこの先でテント泊の人がラッセルをしたのだと聞いたそうです。トップでラッセルをした人を多くの登山者の中から見つけて、お礼の言葉をかける行為にも感激しましたが、逆の立場なら自分もそうするような気がします。サングラスで顔が見えませんでしたが、写真家のKさんだったろうと思っています。
超スローで下り、テント場上の展望のよい場所で休憩していると、白岳へ登った3人が早々と戻ってきました。結局、体力のある彼らも登頂できずに引き返してきたのでした。
3月10日(日) 晴れのち曇
朝から薄雲はあるものの、思ったよりも天気はもっていました。大遠見~西遠見にテントで泊まった人は、午前中に往復できれば登頂に成功するかもしれません。ただし、白岳下をトラバースするトレースが安全かどうかは確信をもてません。テントから遠望するかぎり、雪崩を避けて白岳へ直上する新たなトレースはついていないようでした。
五龍岳登頂はできませんでしたが、あり余るほどの雪との格闘をして、心に深く刻まれた遠見尾根の雪山登山でした。
[注]『入門&ガイド 雪山登山』の訂正事項
(1)難易度:P210の難易度はゴールデンウィークで小屋泊まり1泊2日のもの。それ以外の3~4月は体力★★★・技術★★★★(上級)となり、通常は3~4日行程(テント泊)が必要です。
(2)問合せ先:白馬村観光局× → 白馬五竜観光協会TEL0261-75-3700 白馬五竜テレキャビン× → 五竜(テレキャビン)TEL同じ
(3)地図:「一ノ背髪」の位置を右上に7mm移動 ※「一ノ背髪」は北側に北尾根(村尾根)を分岐させたコブで、北尾根や北沢はバックカントリー滑走のルートになっています。